エアフローメータの動作と特性
1.フラップ式エアフロメータ
現在ではほとんど使用されていない方式だ。
空気通路にフラップを設けて、吸入空気がそのフラップを押すことで電気信号を得ている。
構造的には、フラップに可変抵抗器(ボリューム)が接続されていると思えばよい。
フラップはバネ仕掛けで、閉じる方向に押さえられている。
エアフロの電圧は各社まちまちだが、マツダの一部の車種は吸入空気量と出力電圧が比例する。
最大電圧は5Vのタイプとバッテリ電圧のタイプがある。
トヨタの場合は、反比例するものが多い。
すなわち、吸入空気量が多くなると電圧はゼロに向かって変化するのだ。
吸入空気量と出力電圧の特性だが、吸入空気量を横軸に対数でとり、出力電圧も同じく対数で縦軸にとってグラフを書くと、右上がりの直線となる。
対数軸のグラフに対して直線であることに注意して欲しい。
リニアで書くと、吸入空気量の少ないところで傾斜が大きく吸入空気量の増大に従って傾斜が緩くなるわけだ。
つまり、アイドリング付近では吸入空気量のわずかな変化でも大きな電圧変化として現れ,高負荷領域では少ないことを意味する。
インジェクタ容量を変えた場合に、よくスプリングを調整して燃調を行うケースがあるが、対数特性が変化するため決してお勧めできる方法ではない。
このエアフロメータは体積流量を測定している。
エンジンの必要とするものは、吸入空気の質量だから体積から質量を求めなくてはいけない。
つまり、気圧とか気温による補正が必要になるわけだ。
メカニカルな測定方法のため、精度やダイナミックレンジはさほど広くない。
2.ホットワイア/ホットフィルム式エアフロメータ
国内では日産車が元祖。
最初はホットワイアだったが、最近はホットフィルムになっている。
ホットワイアは、ワイアがむき出しの状態で吸入空気に触れているためほこり等によっての特性変化が発生する。
そのため、エンジン停止時にワイアに電流を流して高温まで発熱させ、ほこりを燃やす様な仕組みが必要になる。
ホットフィルムは、ホットワイアに保護フィルムを被せたようなもの。
いずれにしても原理は同じで、吸入空気中にさらされたワイア(あるいは保護フィルム付き)の温度が一定になるように電流を流す。
吸入空気量が多いほどワイアは冷やされるから、一定温度を保つために必要な電流は多くなる。
この電流値を読みとれば吸入空気量が分かるわけだ。
ちなみに、ワイアには白金が使用されることが多い。
白金は温度と抵抗特性が比較的直線に近いため、制御が簡単なのだ。
具体的には、白金ワイアに定電流回路で電流を供給して、白金ワイアの両端の電圧を測定すれば良いことになる。
フラップ式と比較すると、吸入管で抵抗となるのはワイア程度であることから吸入抵抗軽減に貢献するものである。
吸入空気量と出力電圧は自乗特性を有する。
低吸入空気量領域では敏感で、高吸入空気領域では電圧変化が鈍感になる。
これはフラップ式と共通する特性だが、対数ではなく自乗だ。
この方式では、質量流量が測定できる。
したがって、理想的に動作すれば気温にも気圧にも影響されない。
しかし、自動車用ホットワイアエアフロは理想的に動作していない。
理想的に動作させるためには、ホットワイアの温度を無限に(近く)高温にしなくては誤差が増えるのだ。
従って、自動車用ホットワイアエアフロには吸入空気温度センサが取り付けられ、これによって補正するのが一般的だ。
ターボチューンで、ホットワイアエアフロを押し込みに変更すると旨く動作しない場合があるが、吸入空気温度と密接な関係があるのだ。
もうひとつ、ホットワイアやホットフィルムはエアフロ中央に流れる空気の質量を測定している。
そのため、エアフロ壁面に流れる空気量が多い場合には反応しない。
純正のエアクリーナから、チューニング部品に変更して特性が変わるのはその為だ。
一般的には、高負荷領域で燃料が薄い方向に誤差が出る。
(危険だ)測定のダイナミックレンジは結構広い。
3.カルマン式エアフロメータ
三菱やトヨタの一部が使用している。
原理はカルマン渦だ。
台風のような風の強い日に、電線がヒューヒュ鳴くのを聞いたことがあるだろう。
あれと同じと考えて大きな間違いはない。
あの、ヒューヒュー音が風の強さに比例して音が高くなるように、カルマンエアフロの出力周波数も吸入空気速度に比例する。
他のエアフロメータが電圧を出力していたのに対し、カルマンタイプはカルマン渦の数を周波数として出力する。
もっともディジタルコンピュータでは、アナログ値を読み込むより周波数(パルス幅)の方が簡単に読み込めるから便利なのだ。
吸入空気速度と出力周波数は完全に比例する。
直線なのだ。
これは使いやすい。
欠点は、吸入空気速度..流速流量から質量流量に変換しなくてはならない点だ。
その為には、気圧と気温の情報が必要となる。
補正の度合いは他の方式のエアフロのどの方式より大きい。
高価な気圧センサが必須なのが玉にキズか。
それと、カルマン渦を検出するための仕組みに工夫を要する。
三菱は、完全非接触で超音波ドップラを使用してカウントしている。
トヨタはもっと簡単で、カルマン渦による圧力変化を連通管によって金属泊に伝え,その金属泊の振動数をフォトインタラプタでカウントするのだ。
金属泊を数KHzでドライブするわけだから、可動部の寿命は有限である。
これが最近使われなくなった理由..かもしれない。
測定ダイナミックレンジは広い方である。
4.吸入管負圧測定方式
これは、エアフロメータではないけど最近増えているのでオマケである。
なにより方式が簡単でコストが安いのだ。
エアフロメータを使用しないから、吸入抵抗もゼロである。
ただし、エアフロメータを使用しないから実際の吸入空気量が測定できるわけではない。
単に吸入管負圧(或いは正圧)から吸入空気量を予測しているだけだ。
次の状況を考えて欲しい。
ノーマルエンジン+ノーマルタービンでは、過給圧1Kg/cm2の時のパワーが300馬力だったとする。
エンジンをチューンし、マフラーを変え、タービンも大型にしてチューニングした結果,同じ1Kg/cm2のブーストで400馬力を発生したとしても、燃料コントローラは1Kg/cm2=300馬力,と予測するから、300馬力分の燃料しか出してはくれない。
Dジェトロの車で、エアクリーナやマフラーを交換したらパワーが落ちた..ってのはこの状況によって燃料が薄くなってしまった場合が考えられる。
Dジェトロの車をチューンする場合には、基本燃料料のみならず燃料マップについても調整しなくてはいけない。
5.おまけ
その他にも、アクセル開度とエンジン回転数のみから必要な燃料の質量を演算する方式もある。
クーゲルフィッシャのメカニカルインジェクションや、日産が一部の車種で使用している方式だ。
これ、NAなら使えるがターボでは使えない。
ターボの場合、アクセル開度が一定でも、エンジン負荷によって過給圧が変化し必要燃料量が変わるからだ。
各種補正はもちろん必要。