極薄バラストをバラす。
HIDテストは今回で何回目になるだろうか。
今回バラすのは極薄型と称されるモデルである。
なんと厚みが15mmしかなく、これはレイブリックのバラストに匹敵する。
全体の大きさもレイブリック製に近く、興味をそそられる。
例によって55Wと謳われている。
過去にテストした限りでは55W品が本当に55Wであったためしがない。
ちなみにこのバラストは55W品ばかりではなく、75W品も存在する。
ヤフオクでの落札状況を見ると35Wより55W、55Wより75W品に高値が付いている。
本当に55Wや75Wならば良いのだろうが果たして。
外形は確かに小さい。
小さく薄いので電源コネクタは線出しタイプ、ちなみにマトモな電源ケーブルは付属してこない。
イグナイタも別体となっている。
左が極薄型のバラスト、右は前回入手した2011年モデルと言われるもの。
大きさというか表面積はかなり違う。
55Wとは書かれているが入力電流は書かれていない。
インチキがバレそうな部分は書かない事にしたのだろうか。
厚みもこの通りかなり違う。
通電する前に開けてみるのがF&F流と言う事で、さっそくバラす。
ケースは押し出し型みたいな感じになっていて質感はある。
充填剤は前回の2011年モデル同様に、発泡系?な感じのものでポロポロと取れる。
これは分解が楽で宜しい。
コンパクトにまとめられているが部品が少ないなぁ。
DC-DCのドライバトランジスタはAOT430だ。
PWMコントローラは、これもおなじみのTL494である。
おなじみのデバイスなので55Wだろうが75Wだろうが好きに改造は出来るが、トランスが小さい。
小型品と言う事で改造に対する余裕度はかなり小さくなっている。
そもそもなんでこんなに部品が少ないんだ。
そうか、フルブリッジが付いていない。
DC駆動なのだ。
実は直流型HIDバラストはこれが初めての入手である。
部品が少ないので基板も片面だ。
しかも紙エポキシと来ている。
原価は相当安そうだ。
片面基板なので回路を追うのも簡単だが、別に知りたいわけでもないしなぁ。
イグナイタは別の小さなケースに入れられ充填剤で埋められている。
これもポロポロ系なのでむしり取れば簡単に中を拝む事ができる。
中国バラストスタンダードな感じの、放電管を使ったイグナイタだ。
パルストランスがかなり小型になっている。
極薄型と言う事で単車用としてもこれは売られている。
自動車用が1セット(つまり左右ヘッドライト用で2個)3千円なのに対して、バイク用は1個で3千円以上取る。
小型軽量な所に付加価値があるのかも知れないが、今まで見た中ではもっとも安っぽい。
そもそもDC駆動だとDC用のバルブ(バーナ)が必要になる。
過去にDC用バルブを入手したが、これはアノード側電極とカソード側電極の太さが異なっていた。
カソードからは電子が放出されるので金属消耗が起きやすく、アノード側は電子が衝突するので発熱が大きくなる。
AC用のバルブでも点灯させる事は出来るが、ちらつきが起きたり寿命の問題もある。
バルブは好きな色温度のものが選べるので20000Kをチョイスした。
ちなみに私はチバラギナンバーではないので、実際にこのバルブを付けて走るなどと言う恥ずかしい事は出来ない。
あくまでも実験用である。
送られてきたバルブを見るとセラミックチューブがピンク色だ。
そういえば公称6000Kでありながらやたら高色温度のバルブはこれが青色だった。
中国的にはこのセラミックチューブの色で色温度を分けているのだろうか。
早速このバルブを観察してみると、AC用っぽい。
少なくともアノード側に相当する写真左側も、カソード側に相当する写真右側の電極も太さが変わらない。
以前に入手したDC用は、DCのシールが貼ってあり電極の太さも違っていた。
今回のものは、そのDCシールも貼られていない。
点灯させてみる。
点灯はするというか、点灯するのは当たり前なのだがちらつきも多くはない。
例によってFX9はAFがうまく行かない。
AC点灯型だと300Hz程度で点滅しているのでAFがダメなのかなと思うのだが、コイツはDC連続点灯である。
発光度合いはカソード側の方が大きい。
おそらく電極摩耗もカソード側に集中するだろう。
さて、本当は何ワットなのか測ってみる事にする。
繰り返しになるが、今まで中国製で35W以上のバラストを見た事がない。
勿論表示は55Wなどとなっていても、だ。
今回はDCなので二次電流を測るのも簡単だ。
フルブリッジの損失もチェックしなくて済む。
なおイグナイタの損失は含めて測定している。
ここをバイパスするというか出力電圧だけ測り直せばいいのだが、イグニッション時にテスタリードを外したりが単に面倒だっただけ。
ちなみにイグナイタ損失は1W弱だったので無視出来るというか、中国製のいい加減さに比較すればカワイイものだ。
測定値を見て、思わず笑ってしまう。
上の二つが入力電圧と電流で、13.19V×2.978A=39Wである。
下の二つがDC-DCの出力で、69.44V×0.486A=33.7Wになる。
ここからイグナイタ損失を引いたものがバルブドライブ電力になり、それは約33Wだった。
やはり紛れもない詐欺商品だったか。
というか中国スタンダードだな。
DC-DCのトランジスタは筐体に放熱されているというか、そうしたい風な感じは受ける。
ケースでトランジスタが押さえつけられるように、トランジスタの上には電線の切れっ端が詰められている。
バラした写真を見て分かるように放熱用シリコングリスも塗られている。
しかしこのトランジスタ、ケースはドレインになっているのでケースに電気的に結合させるとケースに触ると感電する事になる。
絶縁は充填剤が回り込んでいる事と、筐体の表面処理(アルミ+アルマイトではなく亜鉛+塗装っぽい)に頼っているのだろうか。
経年変化で接触すれば、ヒューズが飛ぶかトランスが燃える。
まさしく中国クオリティだ。
前回バラした2011年モデルもそうだったが、DC-DCの効率は上がっている。
従来は80%前後が良い所だったのに、コイツも約84%の効率がある。
効率アップが小型化につながっているのは事実だが、しかしこれは安っぽい。
薄型品がどうしても欲しいなら(でもレイブリック製は買えない)仕方がないが、これを選択する理由は見当たらない。
厚みが我慢出来るなら前回バラした2011年製と称されるものの方が良い。
これがバイク用として売られている理由を探ってみた。
HIDは点灯時に光量を素早く立ち上げるため、通常は定格電力の2倍まで突っ込む事になっている。
従って点灯初期の電流が多くなるのだが、コイツはその立ち上げ回路が付いていない。
なので明るくなるまでに時間はかかるが消費電流が余り増えることなく起動させる事が出来る。
単車の場合、特にヘッドライトがAC点灯の場合でそれを整流して使うとなると電流に余裕がない。
なので、このタイプのインチキ制御バラストの方が都合が良いとも思える。
もう一つ、ついでに実験してみた。
どの程度までドライブ電力を絞っても点灯し続けるかだ。
交流点灯型のものではバルブドライブ電力が25Wを下回ると不安定になる。
しかしこのDCドライブバラストでは、なんと5Wまで絞る事が出来た。
白熱電球が60W、HIDは約5Wでドライブしている。
この状態で起動させる事は出来ないが、いったん起動してしまえば定電力ドライブは可能だ。
この状態でしばらく点灯させてみたが立ち消える事は無かった。
起動可能な最低電力は10W程度で、バルブによるかも知れないがこの電力であれば起動出来る。
電力を落とす改造自体は抵抗1本でありTL494の2番ピンとGND間にそれを入れればいい。
2.2KΩの固定抵抗と50KΩの可変抵抗でも入れておけば、一番絞った時の電力が5W以下になる。
追記:
DCドライブでちらつきが起こりやすい原因というか、その様子を撮ってみた。
DC用バルブで、しかも新品のうちは比較的安定して点灯する。
またAC点灯時と違ってガラス内面に付着した金属物質などが拡散しない様子が分かる。
MOV拡張子動画