HIDバラストを改造する


様々なHIDやバルブのテストをしてきたが、今度はインバータ(バラスト)本体をいじくり回してみる。
内部の様子を見る事は過去に行ったが、電気的にいじくり回す事は行っていなかった。
何しろシリコンなどで固めてあるので見ただけでいじる気がなくなったのである。
だがレイブリックのバラストを開けてみると固められていなかった。
ならばいじってみようではないかと思った次第だ。
何をいじるかと言えばハイパワー改造以外にあるまい。
バラストは回路構成が比較的簡単なので改造はそう難しい話ではない。

HIDバーナは定電力ドライブされている。
管電圧はD2系で85±17Vが規定値だ。
この管電圧はバルブ自体の定電圧性から決まるもので、中国製の安いバラストなどは管電圧をモニタしないで定電流ドライブしているものもある。
この手のものだと専用?バルブでないと点灯しないとか、バルブが劣化してくると即不安定になるなどの現象が出る。
しかし少なくとも新品時は正常に動作するので、売り切るのに問題はないというわけだ。
一般的なAC点灯に対して、DCバルブを使ったDCバラストもある。
DCで良ければ出力段のフルブリッジが不要になるのでFET4個分のコスト削減が出来る。
ただしAC用のバルブをそのまま点灯させると電極消耗が激しくて寿命が短いし放電も不安定になる。
ならばとDC用に設計されたバルブを作っちゃったというのが中国パワーを感じさせる。
専用バルブで管電圧が管理されていれば定電流ドライブで良いし、その定電流化も余りループゲインの大きくないオープンループに毛が生えた程度の回路で実現しているものもある。

本来、いや、普通は管電圧と管電流をモニタして、その積が一定値になるように制御している。
バルブの使用時間や温度、経年変化で管電圧は変動する。
その変動分を吸収して定電力ドライブするのが普通の設計である。
なお中国製のバラストはこの定電力ドライブの範囲が狭く、ちょっとおかしなバルブだとすぐ点灯しなくなったり不安定になる。
実際配光テストの時も高色温度バルブやDC用のバルブは中国バラストでは満足に点灯しなかった。

中国製の謳い文句などを見るとディジタルバラストなんて言葉が躍っているが、アナログ回路のみでこの制御を行うのは難しい。
定電力ドライブの他に立ち上げ初期の制御や立ち消え時の制御なども必要だからだ。
レイブリックのバラストはPIC16C716で制御している。



回路というか構成は常識的なものでフライバック方式で駆動電圧を作った後フルブリッジで極性反転させている。
電流検出抵抗は写真左中央下の黄色い部品の下の4つの少し大きめの金皮チップ抵抗で行う。
電圧検出はバーナのラインを分圧してADCに入力している。

出力電力を増大させるには管電圧が低いよと誤魔化すか、管電流が少ないよと誤魔化せばいい。
管電圧を誤魔化す方が簡単だが、場合によってフェールセーフに入ってしまう。
巷の改造屋さんは管電圧誤魔化し方式を採用している人が多いと思う。
まあその方が簡単だ。
外付け抵抗がオープンになればノーマル状態に戻るだけだし、ショートすれば設定最大出力になるだけだ。
なお回路によって異なるがレイブリックの場合は片側を電源やGNDに落とすような感じではない。(絶縁されている)

このバラストは小型軽量薄型で良く出来ている。
写真で光っているのはMKHみたいな積層フィルムコンデンサだ。
中国製ではまず使えない高価な部品である。
トランスもSMDとは言わないが薄型で、筐体に放熱を行っている。



改造の方は管電圧誤魔化し方式、分圧比の変更をさくっとやってみる。



とりあえず半固定抵抗を付けた。
バーナはぶっ壊れるといけないので、まずは中国製をチョイス。
バラストの発熱も多少増えるのだがバーナの発熱増加が凄い。

ドライブ電力を変更して明るさを計測したのが以下の表だ。
照度計測はこちらで行ったのと同様、照度計までの距離を40cmとしている、
なお上のページでの計測時には中国製の公称55W品を使ったが、実際のバーナドライブ電力は実測35.6Wでしかなかった。
計測誤差(バルブの向きなどによって照度が結構変わる、測定日が違うなど)もあるが、おおむね同じバルブは同じ電力(中国製55Wバラストは、実際は約35Wなので)でドライブすると同じ明るさになっている。
バーナ 35W照度 50W照度 60W照度
レイブリック 2020lx 2850lx 3380lx
中国製6000K 2036lx 3400lx 4310lx
中国製(高色温度) 1730lx 2940lx 3890lx
中国製(DC) 1600lx 2730lx 3760lx



レイブリックはオーバドライブで色温度が極度に下がり、黄色っぽくなってしまった。
元々色温度が高いバルブではなかったが、4000Kを下回るような感じになった。
【60W】


【50W】


【35W】


中国製6000Kは上下スイングタイプの付属品で、色温度はさほど変わらない感じだ。
高色温度品はレイブリックバラストでは正常に点灯(配光テスト時は上手く点灯せず)して、色温度が下がって良い感じになった。
DC駆動品も中国バラストでは不安定になったがレイブリックのバラストでは安定して点灯させる事が出来た。

レイブリックのバルブは入力電力と照度がだいたい比例しているが、中国製は投入電力増加分より照度増加が大きい。
これはちょっと謎なのだが発光効率が変わるとしか言いようがない。
特に上下スイングに付いていた6000K品は、35W→60Wで明るさが2倍以上になっている。
見た目でも十分すぎるほど明るい。

管電圧誤魔化し方式での最大電力は約70Wだった。
これ以上管電圧を低く見せようとするとフェールセーフが働いて電源が切れてしまう。
この最大電力はバーナの管電圧にも左右されるので、全ての場合で最大値が70Wに達するかどうかは不明だ。

管電流誤魔化し方式併用で更に大電力ドライブが可能になるのかも知れないが、そこまでは実験していない。
なお消費電力も比例的に大きくなり、ノーマル時の約40Wが出力70Wの時には80Wを超えるほどになる。

バーナが冷えている状態での立ち上げ電流はノーマル状態でも10Aを超えている。
つまり140W程度が入力されているわけで、出力も100W近くにはなっているだろう。
電流誤魔化し方式併用ならばこれに近い線は行けるかも知れない。
逆に言うと70W程度に設定したとしてもコールドスタート制御はノーマル時同様行われるという話だ。
ちなみにバーナの規格としては1.3秒以下に限って75Wまでの電力でドライブして良い事になっている。

蓋を開けたままだと放熱性が心配なので線を引っ張り出した。



改造屋さんなどではこの線を引っ張り出してスイッチを付けたりしている所があるが、インピーダンスの高い部分を引き回すのは不安だ。
そもそもHID自体がノイズの塊のようなものだし、この電圧なり電流検出ラインはADCに接続されている線だ。
確かにCなどは入ってはいるが、長く引っ張るのは気が進まない。
ノーマルとスペシャルを切り替えるなら半導体スイッチやフォトカプラ、小さなリレーでも使いたい所である。
今回は実験用なので50Wと60Wになるようにトグルスイッチを付けた。
中立でノーマル、倒して50Wか60Wとなる。
短い線とは言え引き出す事になるのでサージ保護回路を入れておいた。

中国製バラストでも何でも回路構成は似たようなものだと思われるので、改造自体は難しくはない。
回路が想像出来るだけの知識があれば改造ポイントを見つけるのに1分とはかからないからだ。
ただしシリコンなどが充填されているとそれを取ったりする段階で結構メゲる。

中国製では55W品が多く見られるが、実際に計測してみると35W品と殆ど変わらない。
バーナをドライブする電力を実測してみると約35.6W(55W品)、約35W(35W品)となっていた。

もう一つ、中国製は効率が悪い事があげられる。
レイブリックだとインバータの効率が実測88%近くになるのだが、中国製は80%に満たないものが殆どだ。
これは本体の発熱にも影響し、レイブリック製と中国製では発熱量が10W近く違ってくる。
効率を改善して小型軽量化を行ったというのがレイブリックなどで、コストだけを考えましたというのが中国製だ。

電力事情に余裕のある車にしても、非効率バラストをパワーアップして使うとなると電力の無駄が多いなと思う。
また効率の悪い分だけ発熱するので中国製などを改造する場合はこの点にも注意したい。
国内自動車メーカが使っている、いわゆる第一世代と言われる古いバラストでもその効率が8割を下回るものは少なかった。
それから考えると中国製は低効率と言わざるを得ない。
バルブも中国製は35Wをそのまま55W品と称する場合が多い。
国内メーカや商社の一部は中国製のホンモノ?の55Wバルブを売っている所もあるが高額である。

オリジナルバーナの直径は9±1φだ。
これに対して55W品と称されるものはこの直径が大きく発光部も大きい。
電極間のサイズは変わらないが、いずれにしても物理的サイズが異なっている。
逆に35W品を55Wとして売っている中国製は、当然のことながら35W品そのままだ。

今回の実験でバーナが溶けるような事はなかったが、長時間の使用でどうなるかは分からない。

この記事を書いた時点でレイブリックのバラスト改造に関しての情報は見つけられなかった。
自力でのバラスト改造は過去のものなのだろうか。
ただし上にも書いているが中国製の55W品は名ばかりである。

今回の改造ではドライブパワーを減らす方向にしていないが、当然これも可能だ。
また立ち上げ時の電力制御なども変更する事が出来るかも知れない。
PIC制御なのでソフトウエアがいじれれば何でも出来るという話だし、その方がスマートだ。