J436エンジンをバラす



J436エンジンとはスカイウエイブCJ43A(AN250K3〜K6)に搭載されている、250ccのシングルカム4バルブエンジンである。
諸元というかカタログデータは以下のようになっている。

エンジン形式 J436
排気量 124cc
内径×行程 73.0mm×59.6mm
圧縮比 10.7 1
最大出力 17kW/7500rpm
最大トルク 25Nm/6500rpm
潤滑方式 トロコイド圧送式
潤滑油容量 2.3リットル
80〜160kPa/3000rpm@60℃
点火方式 BTDC10°/1500rpm
進角10°〜40°
バルブ系 SOHC4バルブ水冷単気筒
IN 30°BTDC/56°ABDC
EX 70°BBDC/28°ATDC
オルタネータ 12V/27A

もはや過去のエンジンなのでバラす人も少ないかも知れない。
そもそもはCJ43Aを購入したところから始まるのだが、中古なので、ならば中古エンジンをオーバホールして乗せ換えてみようかなと思ったのだ。

大型スクータなんて買ってもあまり乗る機会はないだろうなと思った。
なので中古にした。
車にしてももちろん単車もそうだが、中古車を買ったのは初めてである。

車のサス交換その他の軽作業はやった事がある。
軽自動車のヘッドをエンジン搭載状態で外した事もある。
しかし最近ではいじる機械もいじれる車も減ってきて、CLSやSLなどは何かをいじるとシステムをリセットしないとエラーが出るなど面倒になった。

だがシグナスに乗り始めて、小さなエンジンは自分でもいじれるかも知れないと思い始めた。
一度エンジンってやつを開けてみたかったんだよな、と、思った。
それがCJ43A購入のきっかけであり、このエンジンをバラす原動力になったのだ。
事前に用意したものは整備書、いわゆるサービスマニュアルってやつだ。

スクータのエンジンは駆動系と一体になっているので、つまりエンジンから駆動系までのオーバホールという事になる。
ただし私はこれまで本格的にエンジンを組んだ事はない。
メカ初心者の私にどこまで出来るのか。

組んだ事はないがバラすのは誰にでも出来る。
中古のエンジンは1.5万円、送料がかかったが高くはなかった。
どうせオーバホールして積むのだから焼き付いていても何でも良いのだが、このエンジンは実働するとの能書きだった。
走行距離は不明とされていた。
エンジン番号からすると私が購入したスカイウエイブものもより新しいかも知れない。

エンジンアセンブリというか、セルモータなどは付いていないがこの状態は結構重い。
一人で持てない事はないが持ちたくない。
駆動系を外し、オルタネータカバーを外しとしていると一人で持つのも苦にならないくらいの重さになる。

まずは駆動系側を開けてみる。
ベルトの入っている部分のケースはねじを外せば簡単に開く。



写真左側がドライブプーリが付いていたシャフト。
右側はまだクラッチユニットが付いているドリブン側のプーリー、つまり写真右側の向こうにリアタイヤが付く感じになる。
この時点でスクータの駆動系を外したのは初めてだったわけで、そうか、こうなっているのかと思いながらねじを回す。
ねじは電動インパクトを使用して外した。
最大トルク145Nmのもので、ちょっとトルクは不足気味だが何とかなった。

ボルトではなくナットを外すので、もしやディープソケットが要るのかと思ったが普通のもので事足りた。
ドライブ側が対角22mm、ドリブン側が17mmである。

ウエイトローラはドライブプーリの裏側にある。
アルミを削ったような、なんか微細な粉にまみれている。



プーリ面は多少段差が出来ているがこの程度は良いのかなぁ。
触って解る程度の非直線性がある。
ウエイトローラも粉にまみれている。
形状からすると純正っぽいが、一応重さを量ってみよう。


一番重いもの



一番軽いもの



別に個体差があってもかまわない。
違った重さのものを実装してトータル重量を決める手もあるくらいだから。
ウエイトローラは真円に近く、片減りの様子はない。
重さは公称39g、純正品だが社外品の方が安いという話もある。
ウエイトローラの直径は24.0φであり再使用が可能だ。

ドライブベルトがこれだ。



幅は21.9mmあるが、これは使用可能だ。
新品状態が23mmで使用限度が21.6mmでギリギリ範囲内なのだ。
使用限度まで減るのに2.5万km〜3.5万km走行と言われている。
ベルトの裏側、デコボコのある部分にひびが入るケースも多いらしいが、このベルトはさほど傷んでいなかった。
あまり時間をかけずにそこそこの距離を走ったエンジンなのかも知れない。

ドリブン側を引っこ抜いてクラッチを見てみる。
この減り方からすると5〜6万kmは使っているのではないだろうか。
とすればベルトやウエイトローラは1度は交換されていると思う。



クラッチ回りの部品は変色などは見られない。
ハウジングの方も摩擦材が当たった部分が段付き摩耗している感じでもない。
もし交換されているとすると走行距離は10万キロ以上となる訳で、それはちょっと考えにくい。
クラッチシューの限度厚みは2mmであり、この状態が2.0mmだった。
従って再使用は出来ない。

クラッチを外すには対角41mmの巨大なナットを取らなければならない。
ナットを捨てる気ならばパイプレンチやユニバーサルレンチ、大きなモンキーで回す事も不可能ではない。
ナットを再利用するならクラッチナットレンチ(34mm×41mmのメガネ)を買わなければいけない。
メガネ型ではないレンチもあるが、いずれも薄くできている。
何故薄いかというと、センタースプリングで押されているので本来であればクラッチコンプレッションツールなどで押さえておかないと飛び出してくるからだ。

ベルト側はこの程度にして反対側を開けてみる。
対角8mmのねじなのだが、奥まったところにあるのでエクステンションがないと回せない。
下の写真はパカッと開けたところである。
写真がわかりにくいが右側にシリンダが見える。
この置き方で写真の右側がシリンダヘッドで左側がリアタイヤ方向だ。
大きな丸いものはオルタネータの磁石だ。
ここから先はSSTが無ければバラす事が出来ない。



そのオルタネータのコイル本体がこれだ。
そうか、こいつはオイル漬けになっているのか。
オイルがたまっている部分、写真の下半分がオイル焼けして黄色っぽくなっている。
オイル交換をサボり気味にするともっと茶色っぽくなるし、こまめに交換していれば色は付きにくい。
コイルの上にある黒い物体はイグニッションタイミングを取るセンサだ。



ベアリング類は簡単にチェックはしたが特に異常は見られない。
ガスケットが弱っていたようで、ここからオイルが漏れた形跡がある。

さて、次はシリンダヘッドだ。
まずはカムカバーを外す。



シングルカム4バルブなのでY型のロッカーアームがある。
写真上側がインテークだ。

ここで考える。
ヘッドを外すという事はカムチェーンを外すという事だ。
カムチェーンを外すにはロッカーアームやカムシャフトを外さなければならない。
出来ればこのままそっくり外したかったのに…
何故って、だって再組み立てが面倒そうだから。

いや、でもヘッド掃除をするにはバルブは外さないといけないし、じゃあバラすか。
クランクを圧縮上死点に持ってきてチェーンとプーリに印を付ける。
カムチェーンのスプロケットをカムシャフト一体の固定板から外し(回り止めの金属板あり)てチェーンをスプロケットとカムの間に落とせば外せる。
私はテンショナを外さずにチェーンを外したのだが、たぶんこれは誤りだと思う。

ここまでは車載状態でも出来るそうだが、私には無理かもと思った。
というか、経験を積まないと無理かも。

カムが出てきた。



カジっている。
おそらくはオイル管理の不良だろう。
変色だけならまだしも、触って解る程度に傷が付いている。

ロッカーアームの方はもっと変形している。
当たり面がかまぼこ形ではなくなっている。

たぶんこのまま組んでもエンジンは回る。
タペット調整すれば音だって許容出来るだろう。
でも、きっとどんどん減っていくと思う。

ここまでの経過を想像してみると、
タペット音が増えてきた。

チェックするとオイル量が極端に少ない。

オイルを交換してタペット調整をして一応は収まった。

程なくしてまたタペットノイズが増えてきた。
こんな感じだったのかも知れない。
このパーツ類は再使用出来ない。

次にシリンダヘッドを外す。
外すのだがヘッドボルトが堅くて緩まない。
ウチにある14mmのソケットは9.5mm(3/8)なので長いハンドルが使えない。
仕方がないので14mmの12.7mm差し込み角のものを買ってきて、長いハンドルをつないでぐぐっと回した。
ネジが固着している感じでヘッドのネジの当たり面が荒れている。

燃焼室のカーボン付着はそう多くはない。
オイルっぽい感じもしないので、まあ状態としては普通と言えそうだ。



さてバルブをどうやって外そうか。
バルブスプリングコンプレッサは持っていない。
仕方がないのでクランパを使って無理矢理スプリングを押す。
たぶんプロに見られたら怒られる。



そしてバルブが外れた。



バルブの外されたヘッド。



問題はここからだ。
ピストンはサイドが傷だらけだ。
ピストンの首を振ってみると明らかに渋い。
これもオイル管理不良か何かでピストンピンが固着し、結果としてピストン側面が傷だらけになったのだと思う。
なおクランクを手で回してみた感じに於いては一見正常だった。
ピストンリングも正常だったので、まあ動作に問題はないというか回っていたのは事実なのだろう。



ピストンヘッドにはカーボンがたまっている。



シリンダ側も傷だらけで再使用が出来ない。
以前はボーリングしてオーバサイズピストンという方法も採れたのだが、国交省からのクレーム?によってオーバサイズピストンが消えてしまったという。



ピストンピンが固着しているのでサークリップも抜けない。
ピストンピンがサークリップを押した状態で固着している。
これはむしり取るようにして何とか外したのだが、ピンが抜けない。
ソケットを使ってクランパで押すという荒技に出るがダメである。
ピンはピストン側に固着している。



手法的にはこの方法を続けるが、ヒートガンでピストンを加熱して熱膨張率の違いも利用する。
相当な温度にして、その熱いピストンピンをクランパで押す。
格闘する事約2時間、やっとピンが外れた。



ピストン側もピンもガリガリだ。
コンロッドもダメだと思うので、ピストンを付けたままクランクケースを割った方が良かったかも知れない。
ただしクランクケースを割るにはSSTが必要で、これを購入するなら外注した方が効率的な気がする。
クランクケースを割るにもクランクを外すにも、ここから先はSST無しでは進まない。
↓はコンロッド小端部である。



完全に焼き付きを起こしてクランキングも出来ない状態でも腰下のベアリングなどへのダメージはあまり見られないそうだ。
各ベアリングやクランクが再使用可能かどうかは、それぞれを外してみないと解らない。
そもそもコンロッドを抜くにはクランクを外さなければならないわけで、やはり外注かなぁ。

このあと燃焼室のカーボの落としやバルブの掃除やすりあわせの予定だ。
カーボン落としはKMC-500を使う。
これは粉末状のアルカリ洗剤で、お湯に溶いて対象物をその中に漬けておくだけで良い。

その他交換部品をリストアップして発注したりしなければならない。
バラすのはねじを緩めるだけなのだが、組むのは結構大変かも。
これらの様子は作業が完了次第、あるいはその途中でもレポートする予定である。
またblogの方でもちょこちょこ書くかも知れない。