バッテリは回復するのか
このUPSのバッテリを交換したのは5年以上前だった。
と書いたのはこちらの記事で、これがパルス印加によるバッテリ復活実験のスタートだった。
最初は10μS程度のパルスを印加していたのだが、より短いパルスの方が良いのではないかと言うことでその後400nSまで短くしている。
まずパルスによるバッテリの再生に関する原文?をご覧頂きたい。
2MHzから6MHzが良いようなことも書かれているし、オカルトチックな事も書かれている。
果たしてバッテリが本当に生き返るのかどうかは謎で、理由はパルス印可によって生き返ったのかトリクル充電によって生き返ったのかがよく分からないレポートが多いからだ。
バッテリへのパルス印可で代表的なページはこちらだと思う。
パルス発生器のキット販売なども行っている。
回路の原型はオリジナルのそれの改良版というか変形で、いくつかの工夫もされているが基本的には同じものだ。
市販品もいくつかあるが中身は見たことがない。
繰り返し周波数やパルス幅などにも色々な説があり、つまりこれが一番というところが無いのかも知れない。
こちらでは実際にバッテリの復活度合いをレポートしている。
こちらは製品販売会社で、効能を謳うのは当然だというつもりで見ていただきたい。
こちらはマイコン制御のパルス充電器を扱っているのだが、同時にコンデンサチューン(オカルト用品)も売っていたりして、信頼性が????なのだ。
カーオーディオ用のコンデンサは理論的に正しいので価格はともかくとして文句を言う筋合いではないが、バッテリにパラにコンデンサをくっつけると云々と言われては反論せずにはいられないだろう。
もっとも燃費節約効果を謳うと捕まってしまう恐れがあるので、最近は微妙な表現になっている。
同社はアーシングワイヤなども扱っているので何ともという感じだが、まあ商売と言うことで。
ちなみにバッテリに接続するタイプのパルス発生器も売っているのだが、ここでも動力性能と燃費の向上を謳っている。
良いのかなぁ。
ところで、パルス発生器とコンデンサの両方を付けるとどうなるんですかね(笑)
話がそれた。
F&Fではオリジナル回路に近いものを作ったわけではなく、パルス発生器とMOS FETによるスイッチで50Vの電圧を印加しているだけに過ぎない。
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50Vの電源は最大電流容量が300mA程度だが、電荷はコンデンサにチャージされるのでマイクロ秒の通電時間内では100A以上を流す事が出来る。
そのため各配線は太く短くすることが肝心、FETも多少暖まるので簡単な放熱版があった方が安心だ。
実際には電流をモニタするために電源のGND側に抵抗を入れて波形観測をしている。
パルス幅を約3μSとして実験中の記事
パルス幅を約400nSとして実験中の記事
パルス幅を変化させながら合計3週間のパルス印加を行った。
最後の1週間はパルス幅400nSでの印加だ。
DCによる定電圧充電も行ったが、電圧を14.5Vにしても200mAの充電電流が流れ続ける。
これはセルが1つショートしていると言うことではないのか。
通常だとトリクル充電電流は10mA程度に収まっても良いはずで、電流が流れ続けるのはおかしい。
セルが壊れているならこれ以上実験を続けても意味がない。
この状態で放電特性を測ってみよう。
負荷は6.2Ωの抵抗なので10V時には約1.6Aの電流が流れる。
バッテリ容量は公称8Ahなので終止電圧(仮に5セルだとすれば6
前後)に達するまでに4時間程度(公称容量は20時間放電率のため)要するはずだ。
計測の結果は以下の通りで、電圧降下が急峻になったのが約200分
程度の所であり、3時間は超えたが4時間には届かなかった。
しかし5年も前のバッテリなのだからそれで十分ではないのか。
ただし1セル壊れているような電圧でしかない。
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もしも1セルが壊れているとすると、それはどこなのか。
直すことは出来ないのか。
ここでシールドバッテリを非シールドとすべく、破壊を行った。
まずは上のプラスチック板を取る。
するとガス流出を抑えているゴムキャップあるのでそれを外す。
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ここからは力作業だ。
希硫酸の飛び散りに留意しながらバラす。
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電極のあるところは測定が可能なのでバラす必要がない。
結構疲れる。
鉛色(まさに)と茶色の太いものがセル間を接続する電極だ。
白いものは電極間に挟まっている綿のようなもので、ここに電解液がしみこませてある。
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その拡大写真。
最近は手抜きでケータイ内蔵カメラを使っているので画質が悪くて申し訳ない。
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電極があらわになったところで各セルの電圧を測定する。
セル |
電圧 |
1 |
-0.24 |
2 |
+1.82 |
3 |
+2.19 |
4 |
+1.96 |
5 |
+2.21 |
6 |
+1.75 |
何と1セル目(マイナス電極側)が逆方向に充電されている。
鉛バッテリの場合は逆方向にも充電されるのだが、順方向に充電し続ければそれは解消されるのではないのか。
電圧が出ているのだからショートしていると言うこともなく、単に逆充電されているように見える。
放電特性を見ても、もしもこのセルが無事ならばそこそこバッテリとして使えそうな気もする。
実はバッテリをバラしてから気付いたのだが、この電極部分はセルに穴を開けることなく外部からアクセス可能なのだ。
と言っても無傷では済まないが、セル同士の接続はバッテリ上部の専用部分を通っているので、そこを狙って小さな穴を開ければ電極が見える。
バッテリのメーカが異なれば電極の位置も違うとは思うのだが、台湾製のLONG(秋月扱い)の12V8Ah品はここだ。
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では、今度はこの壊れたセルの修理にかかる。
と言っても何をしたらいいのか分からないので順方向に電圧をかけて充電してみることにする。
この不良セル部分のケースを切り取ってみたが、電極の色は正常だった。
おそらく逆極性に充電すると鉛の色が反対になる(正極側が茶色で負極側が鉛色)のではないかと思うのだが、マイナス電極側が鉛色だった。
このセルにのみ2.2Vを加えてみると、最初は電源で設定したリミット電流の2Aまで流れて端子電圧は0.8V程度、さらに時間が経つと電圧は2.2Vとなり電流は400mA程度にまで低下した。
さらに30分ほど放置すると電流は200mA程度に減少したが、完全充電されれば10mA程度になると思う。
しばらくこの状態で充電していたのだが、開放型バッテリに変身させてしまったので電解液が蒸発している雰囲気なのだ。
この時期の関東地方は大気が乾燥していて、こんな状態で実験していたらどんどん水分は蒸発する。
と言って、修復可能な壊し方はしていないのだからどうにもならない。
とりあえず蒸留水を補給してバッテリ全体を充電してみることにする。
電解液というか蒸留水を補給したら内部インピーダンスが下がったようで充電電流が増えた。
このバッテリは発熱によるふくらみなどはないので電解液が抜けた風ではないが、それでも徐々に抜けるのだろうか。
こちらのように抜けた痕風な変色もなかった。
密閉型バッテリは通常の開放型バッテリより比重の高い(硫酸濃度の濃い)電解液を使用すると書かれているものもある。
と言っても比重計を持っていないし、比重計を持っていたとしても密閉型バッテリは電解液が全て内部にしみこんだ状態なので簡単には計れない。
しばらく充電した上で約4Aの放電を行い各セルの電圧を測ったら、今度は2セル目の電位が反転していた。
このままさらに負荷を重くしていくと2セル目の電解液が沸騰して煙が上がった。
次に開放型にして破裂の恐れが無くなったので0.5C程の充電電流を流してみた。
すると2セル目の電圧が異常に高い値を示したが、蒸留水を補充したら元に戻り各セル共に2.2V前後になった。
もしかすると1セルずつ個別に充電して特性というか比重を揃えていけばいいのかも知れないのだが、バッテリ全体を充電するとばらつきによって1つか2つのセルが駄目になる感じだろうか。
いや、そもそも電解液が不足しただけというオチだったりして。
樹脂とは言っても水分や気体透過性はあるはずで、5年の月日で徐々に電解液(というか水)が減ったとしても不思議ではない感じもする。
実際がどうなのかは新品時と使い古しの重量差でも見るしか確かめる方法はないのだが、元が結構重いので普通の秤では分解能が足りないだろうな。
10kgまで計れて分解能が1gとかの秤でないと。
0.5Cの充電ではかなりのガスが出てくるので密閉したままでは少し不安もあるが、こうして開放型にしてしまったので15分ほど0.5C充電を行った後で通常の定電圧充電に移行してみた。
バッテリ再生屋によれば分解して再生する(密閉型に関しては再密閉の痕跡が残るらしい)ような記述があり、セルごとの充電やパルス印加などが行われるのかも知れない。
定電圧電源を14Vにセットすると約1Aの充電電流が流れたが、そのまま一晩放置した。
翌朝見ると電解液は明らかに減っていてバッテリは暖かい。
充電器から外したバッテリの電圧は10Vなので1セルショートしている。
各セルを順番に調べてみると1セル目の電圧が低いのと4セル目が0.5V程度と異常な値を示し、さらに自分でショートして自分で発熱しているのかシューシュー音が出ている。
この時点で回復の見込み無しと判断して実験は注視した。
シールドバッテリは電極にカルシウム系などの物質を使っているのでサルフェーションは起きにくいらしい。
実際分解してみても白っぽくなった電極は確認できなかった。
写真は別のシールドバッテリだが、これも長期使用の後にインピーダンス上昇が見られたものだ。
これには20Vを印加して充電を開始し、その後インピーダンスが下がった後に14Vでの定電圧電源を行ったが内部ショートと見られる、今回の実験と同様の症状となった。
そこでケースの下側を切り取って見たというわけだ。
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このことから考えてシールドバッテリの再生にはまず蒸留水の注入、それでも駄目ならパルス印加だがこれは高電圧のDC
印加でも良いような気がする。
あとはセルの電位反転やショートがなければ良いのだが、多くの場合はこれが見られる。
上の解体したバッテリは1セルが異常電位、もう1セルは完全にショート状態だった。
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