オイル添加剤を考える
オイル添加剤ってヤツがある。モリブデンやタングステンなどの金属系やテフロン系のもの、或いは
石油系のものなどが市場に多く出回っている。が、果たしてこれらは効き目があるのだろうか?
その1:モリブデン系
モリブデン系の添加剤はオイル自体に含まれているものもあり、工業用としても使われている。
自己潤滑作用があり固い金属であるこれらのものが、極圧下で潤滑効果を上げることは広く知ら
れている。欠点は色が黒くて汚らしいことだろうか?
(注:オイル添加剤としては二流化モリブデンが使用される)
ちなみにワイパーのゴムに塗るモリブデン系の物があるが、これを塗ると確かにツルツルになり
ワイパーブレードのビビリの押さえることが出来る。
実際にモリブデン系のオイル添加剤は使ったことがあるが、エンジンが静かになるとか燃費が良
くなると言うことはなかった。
もしかするとモリブデンやタングステンはオイル用としてよりグリス用としてなじみが深いかも。
モリブデン含有オイルは新車時のエンジンに入れられていることも多い。今は違うかも知れない
が、ベンツには新車時専用オイルが使われていた。
モリブデンなどは初期馴染みを良くするのに効果的だと言われるから、もしかするとこれら用途
で意外に多く使われているかも知れない。
その2:テフロン系
おそらく現在出回っている添加剤の殆どはテフロン系だろう。原価が安くて売値が高いのがその
理由か。だがテフロンをエンジンに入れるには様々な問題がある。この手の添加剤の能書きには
「金属表面に定着し...」と書いてあるが、普通の状態でテフロンは金属面にはくっつかない。
逆に金属面に付いてしまうと、そこに付着しようとするオイルをはじいてしまってオイルによる
潤滑が出来なくなる。オイルには潤滑作用の他にも清浄や放熱も助けているので、これが阻害さ
れればエンジンは壊れる。シリンダにはホーニングが行われていて、オイル保持のための細かな
傷が入れられている。この隙間にテフロンが詰まってしまったら..エンジンはすぐに焼き付く
だろう。
テフロンはモリブデンなどとは比較できないほど柔らかいものであり、極圧下では粒子がつぶれ
てオイル保持用の隙間に入ってしまう。(定着しないから入るだけ)
またテフロンの粒を細かくするのも難しいらしい。例え細かくしたとしても、やがてくっついて
(一体化して大きな粒になるわけではない)固まってしまう。テフロン系添加剤の説明書に「よ
く振ってからご使用下さい」とあるのはその為だ。テフロン系添加剤を使い続けたエンジン内部
を見たことはないが、オイルパンやオイルラインにテフロンのカスが付着しているのでは無いだ
ろうか。
テフロンはフッ素系樹脂のデュポン社の商標である。同社はテフロンを潤滑用途に使うべきでは
ないと発表している。作っている本人がこう言っているのだから使ってはいけないのだ。
では工業用や軍事用にテフロンが使われているかというと、そんな話は聞いたことがない。日本
ではヤナセがマイクロロン(テフロン系添加剤の代表的もの)の販売を行っているが、実はGM
ではテフロン系添加剤を入れたエンジンは(保証期間内であっても)保証しないと明言している。
GMの販売も行うヤナセでマイクロロンの扱いがあるのは、それが単に利益につながるからだけ
だろう。米ではテフロン系添加剤の有害性から販売に行き詰まり、それが日本に流れてきている
と思うのは考えすぎだろうか。
同添加剤の謳い文句には「○○軍で使用実績..」とあるが、少なくとも米軍はテフロン系添加
剤の使用は一切行っていないそうだ。
テフロンは柔らかいものなので、打音の軽減には多少役立つ。例えばタペットノイズなどがそれ
で、隙間にテフロン粒子が入ることで音質が変化するわけだ。しかし接触面の圧力が上がればテ
フロンはつぶれてしまって役に立たないし、燃焼室に入って燃焼すれば有害ガスを発する。
粒状が大きければオイルフィルタに詰まってしまうし、オイルラインやオイルパンに沈殿する。
テフロン系添加剤を入れたら燃費が良くなった(様な気がする)と言う人もいる。だが摩擦抵抗
を1割低減できたとして、どの位燃費に貢献するのだろうか。テフロンによってエンジンの摩擦
抵抗が軽減されないのは既に書いた通りだが、にもかかわらず燃費が良くなった(気がする)事
を真実と考えるなら、摩擦以外にオイルの何かの状態が変化していることになる。
その一つは粘度であり、粘度が下がればオイルポンプの抵抗も軽減される。もう一つは定着せず
にオイルライン中を浮遊するテフロン粒子がパイプ中に沈殿してオイル流量を減らした事か。
いずれにしてもテフロン系添加剤は「百害あって一理無し」と見るのが正しいだろう。
テフロンは防水/撥水処理やワックスに使うのが正しいと言える。
その3:石油系添加剤
STPのオイルトリートメントは長寿商品である。モータアップなども同様のものではないのだろ
うか? これらの添加剤は(一般的には)オイルの粘度を上げる方向に作用する。粘度を上昇さ
せる(或いは非ニュートン化する)事で油膜の保持が容易に行えるようにするわけだ。
従って普通のオイルで普通に走行している人には無用の長物かも知れない。気密性の下がったエ
ンジンなどには効果があるとも考えられるが、そんなエンジンを使ったことがないので分からな
い。いや、ずっと前にロータリーエンジンにこれを使用したときは、オイルの(吹き抜けによる
)汚れの明確な低減効果があった。
ホンダのS2000は高回転高出力型のエンジンで、高回転化に伴う油膜切れ防止のためにシリンダ
とピストン間に保持されるオイル量が増やす方向でチューニングされているらしい。もしかする
とピストンクリアランスも大きめなのかも。こういったエンジンには粘度上昇型の添加剤が効果
的であると考えられる。
だが待てよ、オイルメーカは最高品質のオイルを作るべく日夜努力している。添加剤を入れるく
らいなら性能の良い化学合成オイルを使った方が得なのではないだろうか?
VC