可変バルブタイミングを考える


今や4サイクルエンジンに可変バルブタイミング機構が備わるのは当たり前といえる。
登場初期(日産のVG型が最初ではないかと思う)には珍しかったが、今では技術も成熟して連続可変バルブタイミングなんてのもある。
ここではVTECのような可変バルブリフト機構に関しては述べない。


バルブタイミングを可変する事はカムの作用角を変えるほどの効果はないが、特定の条件下ではそれに代わるものとして使われている。
すなわち、中速回転域で充填効率を上げようとするとバルブオーバラップを広く取りたくなる。
しかしこれではアイドリング安定性が失われる結果となる。
そこでカム駆動機構に位相機を介入させることによってオーバラップを可変使用というのがこの技術だ。
通常のコンベンショナルなカム機構ではカムはクランクシャフトからチェーンやベルトやギアを介して駆動される。
つまりクランクシャフトとカムは同期して動いているわけである。
可変機構はクランクシャフトとカムの位相を変える仕組みだ。
通常はヘリカルに切られたギアどうしを油圧でスライドさせるようになっている。


これは何とすばらしい機構だろう!とエンジニアが思ったかどうか知らないが、アイドル安定性と中速〜高回転域までのチューニングが楽になったという点では、可変長マニホールドや背圧可変型マフラーより効果があるといえるだろう。
が、それにも限界がある。
あくまでも可変できるのはカムの位相だけであり、カムの作用角そのものを変えているわけではないのだ。
ここで一つのエンジンを例に動作を探ってみよう。
エンジンはトヨタのアルテッツアに搭載されている3SG型だ。
可変機構はトヨタお得意の連続可変タイプで、2000ccエンジンとしては比出力が高めにチューニングされている。
最高出力を上げるためには最高回転数を上げ、最高回転数で発生するトルクを上げることである。
(最高出力=トルク×回転数÷716)比出力の高さではホンダエンジンが最右翼だろう。
が、トヨタはこれに迫りたかった。
そこで作用角の比較的大きなカムを使用することになるのだが、これではアイドリング安定性が確保できない。
そこでアイドリング時にはバルブオーバラップが最小になるようにバルブタイミングを可変する。
インテークバルブの開きはじめを遅くして、エキゾーストバルブの開きはじめを早くすればオーバラップは減る。
中速域では最適なオーバラップを得るためにインテークバルブの開きはじめを早めにし、エキゾーストバルブの開き始めを遅らせる。
通常はこの説明を円グラフで行い、それを見慣れている方にはこの方が分かりやすいと思う。
が、ここでは棒線で説明してみよう。
(注:実際のバルブ作用角ではなく、説明のための図で実車の動作とは大きく異なる)
低回転時にはオーバラップを少なくするためにバルブタイミングを決めている。
中回転時には充填効率を上げるためにバルブタイミングを決めている。
高回転時には粘性気体の慣性力を考慮してバルブタイミングを決めている。
この結果、低回転時のバルブタイミングと高回転時のバルブタイミングは同一となる。
高回転時の充填効率を上げようと思えば、バルブの開きはじめは早くしたいし、閉じ終わりは遅くしたい。
しかし作用角が一定だから、このようなカムを使うとアイドリングしなくなる。
実際の所3SGではかなりアイドリングしにくい。
しかしその反面高回転まで一応良く吹ける。
問題は中回転時だ。
オーバラップを増やして充填効率を上げようとする努力は認められるが、アクセル開度が小さい場合には「スカスカ」の印象が拭えない。
乗用車エンジンにプラスアルファの性能をもたらせる目的での可変カム機構は評価されるべきだと思うし、3SGエンジンに可変カム機構がなかったら最高出力はもっと小さな値になったのかも知れない。
しかし、これが可変カム機構の限界なのだ。