危険な安全試験(8/31) ◆ ホンダは、対人衝突の際の安全性を考慮した自動車設計を行うことを発表した。 欧州メーカでは常識的に行われている対人安全設計だが、これまでの日本車ではさほど考慮されていなかった。 例えばベンツやBMWのボンネットはさほど強度が高くない。車種によってはボンネット裏の補強材が非常に少なく貧弱に出来ている。
◆ これは対人衝突で、人をボンネットに跳ね上げたときにボンネットの変形によって衝撃を吸収する為なのだ。また、コンシールドワイパーも余計な突起物を極力少なくするために考案されたものである。 これら欧州車で行われている手法を取り入れるホンダの姿勢は評価できる。ホンダはいち早く(危険な)グリルガードを樹脂製に変更したメーカでもある。トヨタや日産が未だにグリルガードという名の鉄の棒(樹脂カバーが申し訳程度に突いている場合もあるが)を付けているのとは大きな違いだ。
◆ グリルガードの危険性については今更,だが、大人と衝突すれば脊椎損傷の可能性を大きくし、子供だと頭を直撃する位置にある。トヨタや三菱は「ユーザが付けるものでメーカは関与しない」などと言っているのだから呆れる。 その一方で衝突安全ボディーを売り物にした車は多い。日本で衝突安全性試験を行っているのは、運輸省の天下り団体である、自動車事故対策センターだ。
◆ この団体が任意で公平に試験しているのかと思えば、実はこの団体には自動車メーカの社員が含まれている。つまり、テスト車両が決まると徹底的に衝突テストチューニングを行うという訳なのだ。テスト自体は(今や古めかしいと言わざるを得ない)フルラップ衝突だ。これは壁に車を正面衝突させるような感じの、全面を均等にぶつけるテストだ。
◆ このテストで優秀な成績が欲しければ、シートベルトにヒューズを付ければいい。シートベルトに過大な力が加わった場合に、胸部損傷を防ぐには手っ取り早い方法だ。しかもヒューズを入れるコストは数百円で済むのだから有り難い。 ちなみに実際の事故におけるヒューズベルトの効果は疑問点が多い。
◆ シートベルトのフォースリミッタ(簡易的にはヒューズベルト),欧州車では以前から使われていたが、日本車で採用されたのはここ1〜2年のことだ。 主に外国における衝突安全試験をパスするために採用されたと言うくらいで、日本のテストには高級すぎる装備として敬遠されていた。
◆ さて、新聞広告などで目に突くブルーバード,衝突安全性試験で「AAA」を取ったから安全ですよ,と言っている。この試験で良い成績を残すには、頭部障害値(HIC)と胸部合成加速度を下げなくてはいけない。実際の試験では自動車メーカの人間によるシートベルトやシート位置の設定,センサの取り付けなどが行われると言うから、衝突テストのスペシャリストがこれらの作業を行うわけだ。
◆ ここでもし測定値が悪く出てしまったら,焦ることはない。試験成績に(メーカが)クレームを付けることになっている。例えばセンサ位置が悪かった,とか、シートベルトの位置がずれた,とかである。クレームを付けている間にメーカは当該車両のマイナーチェンジ,もしくはオプション装備を開発する。そして再テストに挑み、全ての車が安全範囲に入るという仕掛けだ。
◆ この再測定で優秀なデータに変身した代表はトヨタスターレットか,最初のテストではBランクだったが、再測定までにエアバッグ容量拡大(HIC低減)とシートベルトの小細工(胸部G低減)をやってのけた。このように、ボディー強度に一切手を加えることなくAAランクという、Bランクから2ステップも良い評価が得られるのだ。 データ値にクレームを付けての再測定では、自動車メーカには一切の費用がかからない。大メーカトヨタの政治力が運輸省の首を縦に振らせたと考えられないだろうか?
◆ 一方で日産サニーも再測定を行っている。が、こちらは実費。測定値に不満があったため、改良装備を設定して再テストを行っている。この場合は車両を含むテスト費用の全てを自動車メーカが負担することになる。(たぶん1千万円前後だろう)ここまでして良い評価を手に入れた自動車メーカだから、この試験結果を宣伝文句に使おうと思うのは当然のこと。逆に言うと、宣伝に使えるレベルのデータが得られるまでテストに挑む,のかも知れない。
◆ 排ガステストチューニング,燃費テストチューニングから衝突試験対策チューニングまで、現実の状態とは違った試験環境に特化した車が続々と生まれている。 ちなみにメルセデスのCクラスは同テストで「A」の評価であり、サニーやスターレットより安全性が低い,となっている。
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